メンタルヘルス用語集

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メンタルヘルス

人には身体と心の両面があり、その両面がそろって健康であることが大切です。メンタルヘルス、すなわち心の健康管理は、身体の健康管理と同様に、予防や治療だけでなく、その健康を高めてよりよい心の状態をつくることを目指しています。現代の社会や職場はストレスも多く、時には心が不健康な状態に陥る可能性もあります。不健康が嵩じて適応できない人が出た場合にはできるだけ早く適応状態に戻すようにすることが大切ですが、より根本的に、働きがい・生きがいのある職場をめざして組織の健康度を向上させていくことがメンタルヘルス活動の重要な目的といえます。

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Healthy Work Organization(健康な組織)

米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は「健康な組織」(Healthy Work Organization:HWO)を「組織の文化や風土、実際の経営行動が従業員の健康と安全ばかりでなく、組織効率も実現する組織」と定義しています。ここには、従業員の健康と組織の業績は相反するものではなく、両立可能であり、相互作用を通じて互いに強化することができるという視点が導入されています。従業員の健康・安全と組織効率を包含する「健康な組織」が、産業メンタルヘルスの新たな目標として注目されています。

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ポピュレーション・アプローチ/ハイリスク・アプローチ

疾患を発生しやすい高いリスクを持った人を対象に絞り込んで対処していく方法がハイリスク・アプローチです。しかしこれは問題を持った少数の人のみにアプローチするもので、ハイリスクと考えられなかった大多数の中に全くリスクがないわけではなく、その背後により多くの潜在的なリスクを抱えた人たちが存在すると考えられます。そこで対象を一部に限定しないで集団全体へアプローチをし、全体としてリスクを下げていこうという考え方がポピュレーション・アプローチです。

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一次予防・二次予防・三次予防

健康問題が発生した場合に行われる専門的治療、社会適応(リハビリテーション)、再発防止策の対処は三次予防といわれ、病気を早期に発見し対処することで問題を小さいうちに改善しようとする対処方が二次予防と呼ばれます。これに対してそもそも健康問題を発生させないようにしていこうとする考え方が一次予防と呼ばれ、個人の健康確保という面からも、費用面からも効果的であるとの考え方が有力になっています。健康増進(Health Promotion)はこの一次予防の中に位置づけられます。

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うつ病

たいていの人には「躁(そう)」(調子がよく活動的な状況)と「うつ」(落ち込んだ状態)の波があります。この気分の変動が正常な枠の中におさまらず、落ち込んだときの振幅が非常に大きく、落ち込んだ状態だけを繰り返すのが「うつ病」です。
アメリカ精神医学会は①1日中持続する抑うつ気分、②活動性の低下、興味・喜びの著しい減退、③体重減少または増加、④不眠もしくは過眠、⑤運動性焦燥または停止、⑥毎日の疲労感または気力の低下、⑦無価値感、過剰な罪責感、⑧思考力、集中力の減退、決断困難、⑨自殺念慮などの症状が2週間以上持続することを診断基準に定めています。

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大うつ病性障害・気分変調性障害

うつ病の中で、生理的な特質・体質に原因があって生じるものは「内因性のうつ病」といわれ、内因性のうつ病の中でも典型的でもっとも重度のものを「大うつ病」と呼んでいます。「大うつ病」ほどでなく、軽いけれどもうつ気分が一日中あり、それが少なくとも2年間は続いているものを「気分変調性障害」と呼びます。

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仮面うつ病

うつ病は精神疾患ですが、症状が身体に現れる場合があります。「仮面うつ病」は以前は身体疾患とされ、精神疾患とは別に扱われていましたが、最近では頭痛や胃痛といった身体の症状の方が気分の落ち込みなどの精神的な症状より目立つうつ病のことをいうようになっています。

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気分障害・双極性障害(躁うつ病)

「うつ病性障害」、「双極性障害(躁うつ病)」、「気分変調性障害」など気分と意欲が障害される精神障害の一群を「気分障害」と呼んでいます。たいていの人には「躁(そう)」(調子がよく活動的な状況)と「うつ」(落ち込んだ状態)の波があります。この気分の変動が正常な枠の中におさまらず、元気なときと落ち込んだときの振幅が非常に大きく、躁とうつを交互に繰り返す病気を「双極性障害(躁うつ病)」と呼びます。これに対してうつの波だけを繰り返すのが「うつ病性障害」です。

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心身症

仮面うつ病は身体に症状が出る心の病気をいいますが、その反対に心理的なストレスも関与している身体疾患を総称して「心身症」といいます。日本心身医学会の診療指針によると、「身体疾患の中でその発症や経過に心理・社会的因子が密接に関連し、器質的ないし機能的障害が認められる病態を言う。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」とされています。つまり、身体の病気の中で心理的あるいは社会的な要因が大きく関わって病気で、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、消化性(胃・十二指腸)潰瘍、気管支ぜんそく、本態性高血圧症、円形脱毛症などが代表的なものとして挙げられます。

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神経症・ノイローゼ

ノイローゼは心の病気一般をいいあらわす言葉で病名ではありません。ノイローゼとはもともと臓器の故障がないのに機能に異常がある場合の症状のことをさしていましたが、後にフロイトが「神経症」という意味でこの言葉を使うようになり、「心理的な原因によって起きてくる心の病気」という意味になっていきました。神経症には理由がないのに急にドキドキしたり冷や汗が出る「不安神経症(不安性障害)」、自分が不潔な気がしていつも手を洗っていなければ気がすまない「強迫神経症(強迫性障害)」などさまざまなものがあります。「神経症」という表現は精神疾患の生理的メカニズムが解明されるに従って用いられなくなり、アメリカ精神医学会の1980年の分類からは除外されていますが、臨床の中では生き続けています。

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統合失調症

スイスの精神科医ブロイラーは1911年に感情や思考、行動との間の連関の喪失を捕らえて統合失調症という病名を提唱しました。統合失調症の特徴的な症状は、①妄想、②幻覚、③まとまりを欠く会話、④まとまりを欠いた興奮した行動、⑤喜怒哀楽のなさ、考える内容の乏しさ、意欲の少なさ(陰性症状)の5つです。こうした症状とともに社会生活を送ることが難しくなってくると、統合失調症と診断されます。統合失調症の生涯有病率は1%程度といわれています。若いうちに発病することが多いため、職について数年のうちに発症する人が多いようです。

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タイプA

1950年代後半にフリードマンとローゼンマンは冠状動脈疾患と虚血性疾患の主因はいろいろな情動反応(いかり、よろこび、おそれ、かなしみ)の強さと関連があると考え、①性急で物事をできるだけ速く成し遂げようとし、それが妨げられると強い怒りを示す、②仕事への意欲が強い、③他人に対し非寛容で敵意を示しやすい、などの行動特徴を「攻撃的(aggressive)」であるということで「タイプA」と名づけ、タイプA行動を示す人が冠状動脈性心臓病の発病に強く関与していると結論した。その後もA型行動と冠状動脈性心臓病が関連することを示す多くの研究が発表されている。

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メランコリー親和型(前うつ性格)

ドイツの精神病理学者テレンバッハはうつ病になりやすい人には秩序への特別な関わり方(秩序志向性)があると著書「メランコリー」の中で指摘し、几帳面で何事においても完全主義で責任感も強く対人関係も細やかな配慮が行き届いているといった性格をうつ病になりやすい性格として「メランコリー親和型」(前うつ性格)と呼んでいます。

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神経伝達物質・セロトニン

神経細胞同士のすきま(シナプス間隙)において脳からの信号(情報)の橋渡しをする神経伝達物質には人間の感情や気分に働きかける性質をもつものがあり、うつ病に関係していると考えられています。神経伝達物質にはアセチルコリンやノルアドレナリンなどいくつかあるのですが、その一つであるセロトニンの不足がうつに大きく関係しているという説が有力になっています。セロトニンが不足すると抑うつ症状や不安が強くなり、睡眠障害が出やすくなるといわれています。

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薬物療法・SSRI

うつ病の薬物治療で最近主流になりつつあるのが、「セロトニン再取り込み阻害剤」(SSRI)というものを使う方法です。うつの人はセロトニンが神経細胞の受容体にうまく結合できずにいるうちに脳小胞に吸収されて消えてしまうので、SSRIによってセロトニンが吸収されるのを防いで、結合できる確率を高めようとする方法です。
SSRIではアメリカで最初に発売されたプロザックをいう薬が良く知られていますが、日本ではよりマイルドなルボックス、デプロメール、パキシールなどが良く使われています。また、うつの治療にはセロトニンと同時にノルアドレナリンの再取り込みを阻害するSNRIと呼ばれる薬剤も使われ、日本ではその中でもマイルドな作用を持つトレドミンという薬が使われています。

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認知行動療法

認知行動療法はアメリカのアーロン・T・ベックという人がつくった精神療法で、抑うつ的なものの見方のゆがみを浮き彫りにし、それの感情や行動との関係に患者自身が気づき、検証し修正することを援助して症状の緩和をはかるものです。問題の全てを解決することが目標ではなく、より適応性のある対処の仕方を体得し、「問題を処理できる」という感覚を増やすことを目標としています。

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対人関係療法

アメリカの精神科医であるジェラルド・クラーマンとマーナ・ワイスマン夫妻は人間関係が心身の状態に大きな影響を与えるという点に着目し、人間関係の問題を整理する「対人関係療法」を提唱しました。大切な人を失う喪失体験やお互いに分かり合えていると信じていた人とのコミュニケーション・ギャップ、結婚や出産、異動・昇進といった役割の変化、人間関係の欠如などがうつ病のきっかけになることから対人関係の問題を整理することからうつ病の治療をめざすものです。

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アサーティブ行動トレーニング

アサーティブ行動トレーニングとは、自己否定的な性格のために自己表現がうまくできない人や逆に自己主張が強すぎて相手との関係に問題を起こしてしまう言動をする人に、自己表現、対人関係改善の能力を向上し、自分の気持ちも相手の気持ちも尊重した上で自分の気持ちや考えを適切に表現できるようにするものです。

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ストレス・ストレッサー

カナダの生理学者のハンス・セリエが1935年に唱えた学説で、ストレスは刺激に反応して歪んだ状態を指し、刺激そのものをストレッサーといいます。ストレッサーは物理的ストレッサー(暑さや寒さ、騒音、悪臭など)、化学的ストレッサー(酸素欠乏、栄養不足、薬物など)、生物学的ストレッサー(病原菌の侵入など)、社会・心理的ストレッサー(職場や家庭の人間関係から生じる葛藤や不安など)の4つに分類されます。適度なストレスは日常生活を活性化させ人生を豊かにするものですが、過度なストレスは心身に悪影響を及ぼすとされています。

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コーピング

ストレスを回避する行動を含めて、ストレスへの対処法のことをコーピングといいます。人によって何がストレスの原因になるかは様々ですが、コーピングのあり方も様々です。たとえば、問題解決のために何かを実行する、計画する、別の活動を抑制する、時期がくるまで待つ、人の援助を求める、積極的な再解釈を行うなどの前向きなコーピングがある反面、感情の発散、否認、酒などもコーピングに含まれます。自分でストレスコーピングをより健康的なものにしていく方法として、自律訓練法があります。

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リラクセーション・自律訓練法

リラクセーションとは心と身体の緊張を解きほぐし、心が落ち着いて安心すること、ゆったりと休息することをいいます。そのための代表的な方法の一つが自律訓練法です。
自律訓練法は、1930年代のドイツの神経科医シュルツにより科学的に体系化されたストレスの科学的緩和法です。これは、自らをリラックス状態にする訓練で、現代人に欠けている「ホッと一息つく」状態を作り出すものです。言い換えれば、上手な休み方、上手な一息の入れ方で、このゆったりした気分を味わえるようになると心理的・生理的な休息がもたらされ、心身が本来持っている能力を最大限に引き出すことができるようになります。「蓄積された疲労の回復」「気分・気持ちの安定」「仕事・学習・研修に対する集中力・能率の向上」「内省力と自己向上性の増加」などの効用が科学的に確認されています。

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臨床心理士・産業カウンセラー・精神保健福祉士

臨床心理士は財団法人日本臨床心理士協会が認定している資格で、大学において心理学あるいは心理学隣接諸学科を卒業した後、5年以上の心理臨床経験を有するものもしくは心理学系大学院博士課程前期を修了した後、1年以上の心理臨床経験を有するものなどに受験資格が与えられます。産業カウンセラーは社団法人産業カウンセラー協会が認定する資格で、初級・中級・上級があります。
臨床心理士・産業カウンセラーは労働者に対するカウンセリングを行いますが、事業場の心の健康づくり対策に経験のある場合は、事業場に対しても教育研修、カウンセリングのほか、情報提供、助言等のコンサルテーションサービスを行っている場合もあります。
精神保健福祉士は精神障害者の社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行っています。

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産業医

事業場における労働者の健康の保持・増進に努め、職場環境管理を行い、労働と健康の両立を図る医師。常時50人以上の労働者が働く事業場では、嘱託産業医を選任することが義務付けられている。一般的には事業場の近くの開業医に委嘱されることが多い。1000人以上の事業場、または有害業務のある500人以上の事業場では、専属産業医を1人、3000人以上の事業場では2人の専属産業医を選任しなければならない。

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地域産業保健センター

地域産業保健センターは、産業医等の選任義務のない50人未満の小規模事業場の労働者および事業者に対する産業保健の直接的支援として、心の健康に関する相談、心の健康づくり専門スタッフ等の紹介等の助言や情報提供、その他の事業場外資源とのネットワークの形成、維持に関する支援を行っています。なお、拡充センターにおいては夜間、休日等の相談の受付を行っています。
同センターは厚生労働省が労働基準監督署の管轄区域ごとに設置し、その運営を郡市医師会に委託しているものです。活用のための問合せ先は都道府県労働局、労働基準監督署、都道府県産業保健推進センター等で知ることができます。

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都道府県産業保健推進センター

都道府県産業保健推進センターは、産業医や衛生管理者などの事業場内産業保健スタッフに対して心の健康づくり対策についてのサービス(職場環境等の評価と改善の支援、教育研修の支援、事業場内の相談体制作りの支援等)を提供するとともに、地域産業保健センターの活動に対して専門的、技術的な支援を行っています。
センターは都道府県ごとに設置されていて、労働福祉事業団が運営しています。活用のための問合せ先は労働福祉事業団、都道府県労働局、労働基準監督署等で知ることができます。

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労災病院勤労者メンタルヘルスセンター

労災病院勤務者メンタルヘルスセンターは労働福祉事業団が運営する労災病院に設置されています。ここでは、労働者に対するストレス関連疾患の診療や相談、職場のストレスに起因する疾病についての研究、労働者のストレス予防に関する研修、ストレスドックによるストレスの早期発見及び健康指導等を行うとともに、産業保健推進センターを介すること等により産業医に対する専門的・技術的な支援を行っています。
また、平成12年度からは、心の健康相談に関する電話や電子メールによる相談事業を行っています。

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EAP

Employee Assistance Program の略。社員の仕事上のパフォーマンスに影響を与える個人的問題(健康・結婚・家族、経済的、アルコール、ドラッグ、法的、心理的、ストレス等)を見つけ、解決するのを援助することを目的とした従業員支援プログラムです。もともとは1940年代にアメリカの先進企業がアルコールや薬物依存対策として導入したのが始まりで、現在ではアメリカの経済誌『フォーチュン』が選んだ500社のうち約95%がEAPサービスを受けているとされています(1997年)。
EAPは社内にスタッフが常駐して従業員の相談を受けるタイプと社外の専門機関がクライアント企業から業務委託を受けるアウトソーシングタイプの2つがありますが、最近では社外のEAPを利用する企業が増えているようです。

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4つのケア

労働省が平成12年に発表した「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針について」の中でメンタルヘルスケアを推進するために4つのケアが重要であることが指摘されました。4つのケアとは労働者自身がストレスに気づき対処する「セルフケア」、管理監督者が職場環境等の改善や個別の指導・相談を行う「ラインケア」、組織内の健康管理担当者による「事業場内産業保健スタッフによるケア」、組織外の専門家や相談機関を活用する「事業場外資源によるケア」を指しています。

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PTSD(心的外傷後ストレス障害)

Posttraumatic stress disorderの略。自分や他人が事故や暴行、脅迫、災害、戦争などによって死に直面するような耐え難い外傷体験によって強い恐怖を感じた後、その出来事を思い出して恐怖にさいなまれたり(再体験)、その出来事と似通った状況を避けたり(回避)、不眠やイライラなどの症状に襲われる状態(覚醒亢進)をPTSDといいます。PTSDの症状は多くは外傷体験から3ヶ月以内に始まり症状が1ヶ月以上、長い場合は1年以上続きます。4週間以内でおさまるものは「急性ストレス障害」といいます。

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