企業と消費者が“お互いさま”に尊重できる社会へ
~企業側の視点に立ったカスハラ(カスタマーハラスメント)対策とは~
日本カスタマーハラスメント対応協会では、犯罪心理やメンタルケアの実務的な面から従業員・組織・業界それぞれのレベルで支援している。カスハラ(カスタマーハラスメント)を「しない・させない」社会に向けて企業が取り組むべきアプローチ方法について、副代表の酒井由香氏に聞いた。
- 執筆者プロフィール

一般社団法人ココロバランス研究所 日本カスタマーハラスメント対応協会副代表
酒井 由香氏
- 組織情報
日本カスタマーハラスメント対応協会
各界の有識者と共にカスハラ行為者分析プロファイルの作成、カスハラを抑止するための啓発活動、従業員向けの研修・講演、カスハラ対策を行うための組織コンサルティングを行っている。
カスハラ(カスタマーハラスメント)が増加している背景
カスハラが増加している理由として、直接企業へ苦情を言わなくともSNSなどを通じて簡単に発信できるため、カスハラに該当するような行為への障壁が下がっていること、また企業側が消費者に対して“神対応”と呼ばれるようなサービスを行ってきたこともあって、消費者がサービスを受ける前から過剰な期待を持っていることなどが挙げられます。さらに、コロナなどで社会全体が不寛容な雰囲気になり、消費者が従業員に対して、ストレス解消のためのはけ口とするケースや、デジタル化の進展についていけない方たちが不満を感じてカスハラにつながるケースもあります。
最近、サービス業で特に重要だと思うのが、応対者のメインが若年層であるということです。この世代は、幼少期からSNSなどでハンドルネームを一般的に使ってきたからこそ、社会と実名でつながることに不安感を持つ人が増えている印象です。そこで顧客から怒られると、個人を否定されたような気持ちになり、ダメージを受けてしまいやすいのです。一方で、カスハラをしてしまう層には高年齢の男性が多い傾向にあることが調査によりわかっています。この層と応対者となる若年層の間に生まれるギャップがさらにカスハラにつながっていると感じます。
カスハラ対策で企業側が行うべき3つのアプローチ
カスハラに対して企業側は次の3つのアプローチが重要です。
- ①カスハラ行為者を理解する
- ②カスハラ応対者の精神的なケアを進める
- ③ガイドラインやマニュアルを策定し、企業としての明確な姿勢を示す
特に、応対者の精神的なケアが、離職を予防するためにも非常に重要です。ただ、あくまでも企業が明確なガイドラインやマニュアルを作成しておかないと、精神的なケアを行うことはできないため、3つのアプローチを多角的に進めることが大切です。
企業として正しい顧客対応を行っていることが前提
現在、様々な企業でカスハラ対策について表明を出しています。ただ、“企業 vs カスハラ客”という姿勢を前面に出すだけでなく、無理な要求や悪質なクレームをする一部の人たちを基準にサービスを提供することは困難であり、多くの賢明なお客さまにしっかりとしたサービスを提供していくという想いを伝えることがとても重要だと思います。このように、「賢明な社会、賢明な消費者でいて欲しい」というメッセージが含まれていることが大切です。
消費者団体の方に話を聞くと、カスハラ対策が進むことで賢明な消費者も排除されるのではないかといった懸念の声も伺いますが、企業側が、ただ消費者を締め出すような状況ではなく、“お客さまとはお互いさま”という姿勢とカスハラ対策をバランスよく世間に発信していくことは、企業の見られ方に良い影響が出るものと思います。
カスハラ対策を表明する際には、企業として正しい顧客対応を行っていることが前提です。たとえば、顧客対応についての基準を持って行動しているか? 自分たちの提供価値を上げるように努力しているか? PDCAを回しているか? 社内教育はできているか? 現場はマネジメントからレビューをもらえているか? など、企業側として正しい顧客対応に努めなくてはいけません。
顧客を定義してから、自社のカスハラを定義する
また、カスハラ対策がうまくいかないときに、顧客に寄り添い過ぎた対策を行い、従業員が今まで以上に疲弊するというパターンとは逆に、従業員に寄り添いすぎて顧客からの評判を落としてしまうパターンがあります。このバランスをとることはとても重要です。自分たちの業種業態・規模・目指すべき目標に沿った対策が必要でしょう。カスハラは企業によってそれぞれ異なるため、自分たちが受けているカスハラを見極めないと、カスハラ対策で失敗する原因となります。
それぞれの企業で起きているカスハラそのものを定義するためには、まず顧客の定義から始めなくてはいけません。たとえば、企業側が求める顧客像はなにか? その顧客像から逸脱するとどのようなことが起きるのか? その逸脱に対してどう是正してほしいのか? などしっかり見極めた上でのガイドラインを作ることが重要だと思います。
企業と消費者がお互いに尊重し合える社会を目指す

※日本カスタマーハラスメント対応協会の略称
日本カスタマーハラスメント対応協会の上部組織が一般社団法人ココロバランス研究所です。そこでもウェルビーングを目指すために解決すべき重要な問題の一つとしてカスハラに着目し、その対応に取り組んでいます。今年に入り、新たに企業がカスハラ対策をどのように行っているかを診断できるモデルを作成しました(図参照)。これはそれぞれの企業における、カスハラの特定や影響を軽減させるためのプロセスがわかるようになっています。
このように、企業と消費者は“お互いさま”という関係に立ち、賢明な消費者にサービスを当たり前に届けられる社会。そのような社会を私たちは目指していきたいです。
(サービス産業生産性協議会が発刊している『SERVICE INNOVATION REPORT vol.36』(2024年7月31日発行)掲載のインタビュー記事をもとに編集)
日本カスタマーハラスメント対応協会 酒井副代表が登壇するセミナー情報
カスハラに負けない!対策と組織づくりセミナー~専門家の解説と企業事例で学ぶ~
- 日時
2025年2月20日(木)13:30~16:00
- 開催形式
ビジョンセンター赤坂(永田町)803号室/オンライン(ZoomによるLive配信)
- 講師
- 【専門家】
一般社団法人ココロバランス研究所
日本カスタマーハラスメント対応協会副代表
酒井 由香 氏 - 【発表企業(2社)】
西日本旅客鉄道株式会社 鉄道本部 CS戦略部 CS推進室 課長
畑岡 真紀子 氏株式会社ハクブン 常務取締役
岩崎 麻由 氏
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サービス産業生産性協議会事務局(担当者:三浦)
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